女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


「・・・ちゃんと聞こえてた?――――――私に、指一本、触れないで」

 彼は片手を頭に突っ込んでかき回し、今にも壁を殴りそうな怒りで充血した目で見る。それからイラだった声で言った。

「・・・これ以上、どう謝ればいいんだ?」

「謝罪が欲しいんじゃないのよ。そんなことも判らないの」

 また深呼吸をして両目をきつく閉じる彼を見詰めた。

 どうして判らないんだ。そこじゃないでしょう。ポタポタと音がしてピンクの液体が床を叩く。

 ガタン、と音を立てて彼が立ち上がった。

 そのまま財布だけを掴んで部屋を出て行く。まもなく、玄関のドアが開いて閉じる音も聞いた。

 私もそこで、全身を緩めて息を吐き出した。

「・・・・ああ・・・全く・・・」

 野郎って、どうしてあんなにバカばかりなの。

 皮肉な笑顔で切れた手の平を見詰める。

 話し合いにすらならなかった。結果は、手の平の傷と夫の退場。

 あーあ。




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