女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
夜の中を駅前まで歩いて、電車に乗った。時間も11時を過ぎていて、私はぼーっと窓の外に散らばる町の明かりを見詰める。
都心に出てから公衆電話を見つけ、女友達の弘美に電話をかけた。
『はい?』
公衆電話からだろう、慎重な弘美の声が聞こえる。
「弘美?私よ」
相手はしばらく黙ってから、笑いながら言う。
『残念ながら、私って知り合いはおりませんが』
私もつい笑ってしまった。
「はい、こちらはまりです。急で悪いんだけど、今晩泊めてくれない?」
うん?と相手の笑い声が止む。
『・・・どうしたの、まり?』
私は端的に答えた。
「夫婦喧嘩よ」
するとあははははと軽やかな笑い声が聞こえて、弘美が言った。
『バッカじゃないの、あんた達。締め切りも終わったし、私は勿論オッケー。バカバカしいけど力になるわ。おいでよ』
私は受話器を持ったままにやりと笑う。
持つべきものは、毒舌家の友達だ。この言われようでは涙も湧かないわ。
コンビニでお菓子やなんやを色々買い込んで、弘美のマンションまでぶらぶら行った。
「へーい、いらっしゃーい!」
明るく、ヘビースモーカーで全国毒舌家団体代表(そんなものがあれば、間違いなく代表だ)の弘美が玄関のドアを開ける。