女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 私は頭の上に巨大なクエスチョンマークを浮かべていた。

 何で判るの?マジで、何で?

 母は荷物をベッドの横に置きながら答える。

「強いて言えば、雰囲気かしらね。後は微熱がありそうな顔色。それと状況判断。どうしようもない事が介入したから、まりは家出したんだろうと思ったのよ。考える時間欲しさにね。ただの夫婦喧嘩の家出じゃあなくて、夫婦喧嘩はオマケのようなものかしら、って」

 ・・・・恐れ入りました、お母様。

 ホテルのレストランで食事をしながら、簡潔に経緯を話す。

 桑谷さんの異動、それにひっついていきなり現れた社員の美人の女、された嫌がらせ、それに関しての夫婦喧嘩。

 母はワイングラスをくるりくるりと回しながら黙って聞いていた。

「その嫌がらせはまず間違いなく、その女性社員よね」

 母がキッパリと言った。私も頷く。

「そう思う。他に候補もいないし。でも口喧嘩のお返しにしちゃ陰険過ぎない?ロッカーでは人に見られる可能性だってあるし、大体犯人が女性であるのを言ってるようなものでしょう?」

 ロッカーにはカメラはないが、勿論男性は入れない。

 私の言葉に母は首を捻って、微かに微笑んだ。全く考えの読めない表情をしている。この曖昧な笑顔が、戦場でカメラをまわすのに役に立つのだろう。自分がどっちについているのかを知られてはならないのよ、と聞いたことがある。

「バレてもいいと思ってるのよ、それは」

「え?」


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