女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
「本当なら名前も書きたいくらいだったんじゃない?これで様子を見てお前が病むようなら桑谷さんの結婚生活も壊せると思った、と思うわ。昔自分になびかなかった男は勝手に結婚して幸せでいる、それが嫌なんでしょう。桑谷さんを手にいれたいと思ってるんじゃなくて、幸せな人間の邪魔をしたいのよ、恐らく」
・・・・何て迷惑な女だ。私は憮然とする。
「だから、あなたの仕業?と聞いてみたら、案外あっさりと認めるかもね」
そうなのか。それは面白そうだから、是非聞いてみたい。正し、その後やつに手を出してはいけないのなら、それを聞くのは拷問に近い。
「ところが」
母は続ける。ワインをボトルで3本あけているのに、まだ酔ってるようには見えない。間違いなく、私はこの人の娘だ。
「お前は気に病むどころか人に話しまくって風評で身を守りだした。だから、これからよね。彼女がどう出るか、予測は出来ないけど」
私は大して食欲もなく、まだ半分残っているお皿を向こうへ押しやった。
そしてため息をつく。
「・・・まさか女を殴るわけにはいかないしね」
私の呟きに母はカラカラと笑った。
「いいじゃないの。まりは無宗教でしょう。右の頬を打たれて左もさしだすことはないわ。やられたら、やり返しなさい。それよりも―――――」
過激なことをさらりと言って、母は笑顔を消して私を見詰めた。
「・・・お腹の子供のことを、忘れちゃダメよ。安定期に入るまでは、少しの緊張でも影響が大きいのだから」
私は驚いて母を見詰める。・・・何か、今、普通の母親っぽかった・・・。