女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
日傘をくるくる回しながら電話ボックスに近づき、締め切ると暑いのでドアを足で開けて止めたままで、番号案内で大手の保険会社の電話番号を調べた。
そしてそのまま電話をかける。
2回ほど人から人へと回されて、やっと目的の男に繋がった。
『はい、楠本です』
ハスキーな声が耳の中で転がる。私は汗を流しながらくくくと笑った。
こいつも結婚してから、大分落ち着いた。声に昔のようなやんちゃさが消えている。
私の男の親友である楠本孝明は、現在は保険会社の設計部門の課長職に就いている。営業で無くなったため、女性からは保険契約を取らないという自分で決めたポリシーに振り回されることがなくなったと喜んでいた。
ヤツは、所謂美形なのだ。それも、極上に、いい男。なので、女性客からまもとに契約を取ろうとすると自動的に数々の困難がついてきたのだった。
「よお、楠本、元気?」
私の問いかけに、楠本は一瞬黙ったあと、罵声を浴びせた。
『まりっぺか!?お前今どこにいるんだ!ってか何やってんだよ!!』
私はこれを予想していたので、すでに受話器から耳を離していた。伊達に長い間こいつと友達をしていない。
「・・・うるせえな。野郎が耳元で喚くな」
『お前はどうしてそんなに口が悪いんだ。とにかく、どこにいるか教えろ』
「何でよ」
『迎えに行く』
はい?何であんたが私を迎えに?私は首を傾げて、ちょっと待って、と言う。