女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
私はそのまま翌日をホテルでのんびり過ごした。
元々一人暮らしが長かったし、思ったほどにはホームシックにかからなかった。妊娠を内緒にしているという事が重荷になっていたから、戻る気持ちが薄れていたのもあると思う。
だけどホテルに隠れて5日目、明後日からは仕事にも行かなければならないので、仕方ないから家に帰ろう、と考えた。
玉置に対する心構えも出来た。何より、自分ひとりの時間を堪能して落ち着いたってのもある。
夕方の4時。居るか居ないかは運に任せて、私は久しぶりに携帯の電源を入れる。
そして彼の携帯ではなく、家の電話にかけた。もし彼が仕事でいなくて電話を取れなかったら、自分から家に戻ろうと思って。
耳元でコール音が鳴り響く。
目は窓から見える公園に向けて、緊張を払っていた。
そう言えば、私の庭、水やってないけど大丈夫かなー・・・と思いだしたころ、受話器の上がる音がした。
『―――――はい』
まるで寝起きのような、もしくは疲れて不機嫌という表現そのものの声で、桑谷さんが出た。
私は一度深呼吸をして、ゆっくりと言った。
「まりです」
『―――――』
電話の向こうが沈黙した。
その間、相変わらず窓の外の緑を見ながら頭の中で、1,2,3・・・と数えて待っていた。カウント8で彼の声が聞こえた。
『今、どこにいる?』
「〇〇ホテル。その302号室」
『そこにいろ』
速攻で切れた電話を、呆れて私は暫く見ていた。・・・・簡潔な会話。約1週間ぶりの夫婦の会話、18秒で終了。