女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
私はチラリとグラスの縁越しに彼を見て、テーブルの上の空いた缶を素早く彼に投げつけた。
椅子にもたれたままで全く微動だにもせずに、それはあっさりと片手で受け止められる。
・・・くそう。面白くない男だ。
「その軽いキャラ、何とかなりませんか」
私の嫌そうな声に桑谷さんはカラカラと明るく笑った。
「無理。多分、俺、元々こういう性格なんだよ。君と出会って昔の顔が出てきてるんだ」
私はふん、と鼻をならす。
そうでないことを知っている。彼のお母さんは明るく強い女性なのである程度は受け継いでいるだろうけど、彼のこの軽いキャラは自分を抑えるために本人が作り出したものに違いない。
年齢の割りには、驚くほどにシリアスな場面を潜り抜けることの多い人生だっただろう。軽口を叩いて笑い、雰囲気を軟化させている。それでもたまに獰猛な野獣のような表情を見せることがある。
元々、何かを追いかけることや突き止めることが好きなのだろう。非常に男性っぽい外見と思考回路で、黙って立っていると人に恐怖心を与える男だった。それが判っているから、ふざけて笑うのだろうと。
『日常生活に根付いている職業ならまともでいられるかと思って』選んだらしい今の仕事も、やすやすとこなしながらそれを物足りなく思っていることがあるのに私は気付いていた。
だけど、彼がそれでいいと思っているなら。
私もそれでいいのだ。
「もう一本飲む?」
彼が立ち上がる。
私はにっこりと笑った。
「頂きます」
それで、彼がバランスを保つなら―――――