女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
「本当に悪かった。体は大丈夫なのか?」
「え?ああ、大丈夫よ。生理来た!と思って薬局に駆け込んだはいいけどもう全然出血なんてないの・・・」
言いながら部屋を見渡した私の言葉が尻つぼみで消えていく。
後ろで彼が、うー・・・と小さく唸った。
「・・・・これは、どういうこと?」
私は腰に両手をあてて彼を振り返る。
台所は、酷い有様だった。一言で言えば、ぐちゃぐちゃ。ゴジラかガメラが来襲したのかと思うほどの荒れ模様。破壊だ破壊。コップを一つ叩き割った私など、可愛いといえるレベルの。
彼は片手で両目を覆って、私の視線から隠れながら言う。
「・・・あー・・・。ちょっと・・・その、むしゃくしゃしたので・・・」
「ので?」
また機嫌の悪くなった声で私は復唱した。
「・・・えー・・・目につくものに当り散らした、というか・・・」
ダイニングテーブルは倒れ、椅子の足は折れ、テレビも台から落ち、お皿が何枚か割れていた。衣服まで散らばっている。これはきっと、私が出て行く前に畳んであったはずの洗濯物だろう。
私は体ごと彼のほうを向いた。
「・・・破壊するなら、自分の部屋にしなさいよ!」
彼の持ち物であるテナントビルの最上階の部屋はまだそのままにしてあった。やるなら、暴れるならそっちで暴れろ!!私の、私のお気に入りで固めた家を破壊するってどんな喧嘩の売り方だ!
桑谷さんは長い体を半分に折り曲げて、勢いよく頭を下げた。