女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
「ごめんなさい」
「ごめんで済んだら警察は要らないんです!!」
くそう!何てことしやがるんだこの男は!
私はバタバタと家中をみて回る。
だけど破壊工作が実行されたのは台所だけらしかった。寝室も出て行った時のままだったし洗面所や水回りに変化はない。それに私の大切な庭は、ちゃんと雑草もなく水分も十分で緑は今日も光を浴びて輝いている。
ガラス戸を通してそれを確認した私は彼を振り返る。
「世話してくれたの?」
「ここを君が大事にしてることは判ってる」
小さな声で彼が答えた。
私が口紅で書きなぐった窓ガラスも綺麗に拭かれていた。そのガラスに指で触れる。
私は少しだけ笑って、振り返り、腕を組んで彼を見上げた。
「誰かさんのせいで体中ベタベタよ」
また情けない顔になった彼が可愛かった。
妻が出て行ったからと台所を破壊する男。その獰猛さを普段は隠して、色々と頑張っている目の前の、私の男。
「だから、お風呂入って来ます。その間にあなたは台所を片付けて素敵な朝食を大量に作っておいて」
それを聞いて、桑谷さんはやっと笑って頷いた。
「――――はい、奥様」
お風呂に長い時間をかけて入り、さっぱりして出てくると、台所は一応元の姿に戻っており、彼はせっせと朝食を大量に作っていた。
「おおお~」
私は彼の手元を覗き込んで、嬉しい歓声を上げる。お腹減った。昨日の晩ご飯から食べさせて貰ってないのだ。