女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 器用にフライパンを操りながら、彼がボソッと呟く。

「・・・・そういえば、俺ばっかり謝ってるけど・・・どうしてだ?」

 私はうん?と首を傾げた。

「悪いことしたからでしょ?」

「君の謝罪はどこに行ったんだ?」

 私は髪の毛をタオルでごしごしやりながら椅子に座った。

「だって、お風呂の中で考えたんだけど、私ってば悪いことしてないじゃない。謝らなきゃならないような、一体何したっけ?」

 唖然とした顔で彼が振り返る。本気で驚いているようだ。

「・・・・いや、家出して、心配かけさせただろう?」

「それはあなたが私を怒らせたからでしょう?原因は無視するわけ?」

 ぐっと詰まったけど、持ち前の頑固さで譲らず頑張ることに決めたらしい。

「夫婦喧嘩するたびに家出されたらこっちの身がもたない。パートナーに心配かけるのはいいのか?」

 それに関しては色々言いたいことは山ほどあるが、今日は止めておこう、と判断した。だから私は意地悪な声を作ってこう言う。

「そのお詫びに、昨日私は滅茶苦茶にされたんじゃなかったの?」

 またぐっと詰まった。あの出血は彼の中でも衝撃であったらしい。よっしゃ、当分これで優位に立てるな、と私はほくそ笑む。

 そして、一応ね、と前置きをして、あっけらかんと謝る。

「心配かけて、ゴメンナサイ」

 彼は憮然とした。

「・・・気持ちが全くこもってない謝罪なら、しない方がいいぞ」


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