鋭い彼等のことだから
「あ、そうそう、哲さん。皐月くんね、毎日るりちゃんのために早起きしてお弁当作ってるんだって。自分の分は作らないのに」




「ちょっ……なんでそれお父様に言うんですか!」




和歌子の予想とは違って、皐月は少し恥ずかしそうに声を荒げる。和歌子はきょとんとした顔になって、皐月を見つめた。




「あらぁ、どぉして?私には話してくれたじゃなぁい」




「先生はいいんです!でもお父様はなんかやだ!」




哲は表情一つ変えることなく、紅茶のカップを持ち、皐月を見つめて言った。




「ふーん……お前毎日るりの弁当作ってんだ……。はー……きっしょくわる」





「ほら!ほらぁ!この人はこういうこと言う人なんですよ!」




哲を指差して声を荒げる皐月を横目に、哲はまずいまずいと思いながら紅茶を飲む。それを困ったように笑いながら見つめる和歌子。




「今と昔は違うのだから。あんまりそんな意地悪言っちゃだめよぉ」




「別に意地悪を言ったつもりはないけどな。素直に……自分の感想を述べただけで」




「素直すぎよぉ。今も昔も恋人同士のあり方なんて様々なんだから。皐月くんの愛情表現も素敵だと思うわ。体調面に気をつけてくれさえすればね」




皐月の中では、哲は和歌子と比べてかなり意地悪な存在だ。もちろん皐月と哲の関係が格段仲が悪いというわけではないのたが、哲は仕事以外では相手の反応を見て楽しんでしまう癖があったため、今までにもこんなふうに小馬鹿にされることが多くあった。プロファイラーやカウンセラーなんていうのは、人の反応を見ながら心のケアをしていくことが仕事じゃなかっただろうか、と皐月が疑問に思うほどだった。哲が仕事しているところを、皐月は見たことがあるが、その様子は少なくとも今ここにいる哲とは全然違っていた。公私をはっきりしたがる哲だが、まさかここまでプライベートの姿が違うのかと誰もが思うことだろう。




「おい、皐月。お前るりとは適度な距離感保っとけよ」
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