鋭い彼等のことだから
……が、やはり心配なのは皐月のことだった。




「皐月は別に和也達と仲悪いわけじゃないだろ。自分の実家に帰るのに、何を引け目に感じるところがあるんだ」




「哲さんったらいじわるねぇ。本当は哲さんだってわかってるでしょ」




皐月が実家に帰らない理由。和歌子の言うとおり哲にはおおよその見当はついていた。しかしここで理由を指摘するほど、やはり哲は優しくないのである。哲は軽くため息をついてまずい紅茶を飲み干した。




「まあいい。皐月はるりさえいれば他のことはどうでもいいんだろ」




「もぉ……そんな言い方しなくても……」




和歌子が少し怒った顔で哲をたしなめる。ふと哲が皐月の顔を見ると、皐月は不満そうに口をきゅっと結んでこちらを見つめていた。哲は再び、軽くため息をついた。




「君はわかりやすい男だな。るりと違って」




そう言われた皐月は、哲から目をそらした。




「話は元に戻すが……。お前が実家に戻らないのは勝手だから、その点についてはもう俺からは何も言わん。問題はるりのほうなんだ」




るりの話題が出て、再び哲の顔を見る皐月。




「……ちょっと今こっちはごたごたしててさ。おそらく今るりに帰られたら、さすがに俺達じゃあいつをかばえん。今るりが帰ってきたら、結構な精神的ダメージをくらうことになるかもしれないし。万が一にでも帰りたがったら、とめておいてくれないか?」




皐月はそれに対してにぱっと笑う。予想外の反応に哲は思わず身構えた。




「大丈夫ですよー。るりがお父様のいる家に帰りたいだなんて、間違ってもそんなこと言うわけないじゃないですかー」




それまで意地悪してきた仕返しと言わんばかりの皐月の笑顔に、殴りたい衝動がふつふつと沸いてくる哲だった。しかし微笑を見せ、大人の余裕でなんとか乗り切る。




「君はほんとに和也に似てきたな」




「るりはまったくお父様に似てませんよね」




「……」
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