鋭い彼等のことだから
じろりと皐月を見る。一矢報いてやったという笑顔で、皐月はもう冷めている紅茶を飲んだ。




「……とにかく。るりを家に帰らせないでくれたらそれでいいから」




念を押してくる哲に、皐月は真面目な顔になって切り返す。




「るりを帰らせたくないほど……おうちで何があったんですか?」




哲は答えない。黙ったまま腕を組んだ。和歌子もどのように答えようか迷っているようで、胸の前で手を組み替え、落ち着きがない。




「和也に聞いたら答えてくれるかもしれねぇな」




とは言ってみたものの、事情を知っている皐月の父親ですら、きっと答えないだろうなと哲は思っていた。


 哲は腕時計を確認する。隣でその様子を見た皐月は、哲のつけている何百万もしそうな高級ブランド腕時計に驚愕した。そのくらいの腕時計をつけることができる立場である哲に、恐ろしさが混じった畏敬の念を抱かずにはいられなかった。




「そろそろいくよ」




哲が立ち上がったと同時に和歌子も立ち上がる。




「外まで送るわぁ。皐月くんはここにいて」




「あ……じゃあお父様のカップ片付けときますね」




「ありがとぉ。助かるわぁ」




皐月が哲が使ったカップを持って、給湯室へ向かう。その皐月の姿を確認し、二人はミーティングルームを後にした。


          *


 エレベーターに乗った二人は、精神科のある七階から、一階まで降りる。ここの総合病院は外観に金がかかっているなぁと哲は来る度に思う。エレベーターを降りて、正面玄関前まで歩いてきた。この総合病院は県内でも一、二を争うほどの大病院である。病院の構造は非常に凝ったものとなっていた。
< 28 / 32 >

この作品をシェア

pagetop