鋭い彼等のことだから
子どもを叱り付けるような和歌子の言い方に、哲は冷静に突っ込みを入れた。




「俺はあいつが短気だなんて一回も言ってないぞ」




「……あら?そうだったかしら」




とぼける和歌子をじとりと見つめる。軽くため息をつきながら口を開いた。




「皐月はどんな感じ?看護師として」




その質問に、和歌子はにっこりと答える。




「とおっても頑張り屋さんよ。物覚えも速いし。よく患者さんのこと細かく伝えてきてくれるし。患者さんからの評判もいいんじゃないかしらぁ」




そうか、と神妙な顔つきになる哲。にっこり笑って話す和歌子とは対照的だ。




「最近じゃ、るりちゃんを養わなきゃって、すっごく意気込んでるのよ」




「なんだそれ。あいつ結婚するつもりかよ」




「ええ!?結婚?」




結婚という言葉を聞いたとたん、和歌子は微笑から一転、眉をひそめた。非常に衝撃を受けたのか、節目がちに口を開く。




「困るわぁ。せめて私達がるりちゃんとある程度仲直りできた後くらいにしてほしいわぁ。じゃなきゃ最悪親に結婚の挨拶なしに結婚なんていう残酷な事態になりかねないわよぉ」




「いやその前に、るりはまだ学生なんだから……」




「あー……それもそうよねぇ」




「それにるりもさすがに学生のうちに結婚するなんてことは考えないだろうけど……」




和歌子の顔に笑顔が戻ってくる。二人は仮にもるりの両親だ。両親としても、医者とカウンセラーとしても、娘の考え方は把握しているつもりである。しかし慢心するわけにもいかない。同棲しているというだけでも親としては非常に大きい不安が付きまとうものである。この夫婦は娘が家出をしたことをさほど気にしていないように見えるが、ただただ娘を野放しにしているというわけではないのだ。
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