鋭い彼等のことだから
哲のジャケットの中から着信音が鳴る。特に急ぐことなくポケットをまさぐってスマートフォンを取り出し、電話の相手を確認した。顔色一つ変えずに電話に出る。
「もしもし……ああ?これから?無理だよ。仕事だよ」
哲の話し方と、スマートフォンから漏れてくる声で、和歌子は相手が誰なのかおおよそ見当がついた。
「ん、そのことについては帰ってから話すから。電話じゃうまく説明できないし。……うん。……自分なりに考えをまとめた上でちゃんと話したいんだ、るりのこと。だからお袋にはもう少し大人しくしてくれるように言っておいてくれないか。……いや、ごめんけど、それは教えられない」
哲はそれから何度か相槌を打って電話を切る。スマートフォンをポケットに入れて、腕時計を確認した。和歌子が微笑んで尋ねる。
「……お父様?るりちゃんのことで話聞きたいって?」
「ああ……」
気が滅入る、とぼそりと呟いたのを、和歌子は聞き逃さなかった。
「私も一緒にお話してもいいかしら。あなただけにお話させるのは、きっと荷が重いわね」
るりのことをきっと誰も責める事はできないだろう。今のるりがいくら軽薄な行動をしようと、その結果誰かを傷つけてしまったとしても、それは決してるりだけの責任だとは言えないから。るりがこうなってしまったのは、自分達親の責任だと言えたなら、それはそれで簡単かもしれない。しかしそういうことでもないのだ。それで解決できるわけではないのだ。るりが女性として、大人として、人間として幸せに生きていく方法を周りにいる者達が示していかなければ、なんの解決にもならない。それは二人とも痛いくらいに理解しているつもりだった。
「ちょっとスミスケーキ行ってくる」
スミスケーキとは、女性に人気のあるケーキ屋である。ケーキ屋の地下や二階にはスミスケーキの喫茶店となっており、ケーキはもちろんのこと、洋食やドリンクも頼むことができるのだ。哲の予想外の言動に、和歌子は目が点になった。
「……このあとお仕事じゃないの?」
「お袋と顔合わせたくないんだ。それにるりについて一人で考え事もしたい」
和歌子は呆れたようにため息をつきながらも、微笑んだ。哲は話を続ける。
「それに、久しぶりにあそこのキッシュとストロベリーレアチーズケーキを食べたくなったんだ。もちろんミルクと砂糖を入れたコーヒーと一緒に」
和歌子は思わず、ぷふっと吹き出した。一体この五十過ぎたおじさんのどこから、そんな女子っぽい単語が出てくるのか。人は見かけによらないものである。和歌子は優しく微笑んで、伝えた。
「じゃあ……考え事がまとまったら連絡ちょうだい。私も自分なりに考えをまとめておくわ」
「わかった。ありがとう」
じゃあ、と哲は駐車場に向かって歩き出す。しかし二、三歩進んだところで振り向いた。
「もしもし……ああ?これから?無理だよ。仕事だよ」
哲の話し方と、スマートフォンから漏れてくる声で、和歌子は相手が誰なのかおおよそ見当がついた。
「ん、そのことについては帰ってから話すから。電話じゃうまく説明できないし。……うん。……自分なりに考えをまとめた上でちゃんと話したいんだ、るりのこと。だからお袋にはもう少し大人しくしてくれるように言っておいてくれないか。……いや、ごめんけど、それは教えられない」
哲はそれから何度か相槌を打って電話を切る。スマートフォンをポケットに入れて、腕時計を確認した。和歌子が微笑んで尋ねる。
「……お父様?るりちゃんのことで話聞きたいって?」
「ああ……」
気が滅入る、とぼそりと呟いたのを、和歌子は聞き逃さなかった。
「私も一緒にお話してもいいかしら。あなただけにお話させるのは、きっと荷が重いわね」
るりのことをきっと誰も責める事はできないだろう。今のるりがいくら軽薄な行動をしようと、その結果誰かを傷つけてしまったとしても、それは決してるりだけの責任だとは言えないから。るりがこうなってしまったのは、自分達親の責任だと言えたなら、それはそれで簡単かもしれない。しかしそういうことでもないのだ。それで解決できるわけではないのだ。るりが女性として、大人として、人間として幸せに生きていく方法を周りにいる者達が示していかなければ、なんの解決にもならない。それは二人とも痛いくらいに理解しているつもりだった。
「ちょっとスミスケーキ行ってくる」
スミスケーキとは、女性に人気のあるケーキ屋である。ケーキ屋の地下や二階にはスミスケーキの喫茶店となっており、ケーキはもちろんのこと、洋食やドリンクも頼むことができるのだ。哲の予想外の言動に、和歌子は目が点になった。
「……このあとお仕事じゃないの?」
「お袋と顔合わせたくないんだ。それにるりについて一人で考え事もしたい」
和歌子は呆れたようにため息をつきながらも、微笑んだ。哲は話を続ける。
「それに、久しぶりにあそこのキッシュとストロベリーレアチーズケーキを食べたくなったんだ。もちろんミルクと砂糖を入れたコーヒーと一緒に」
和歌子は思わず、ぷふっと吹き出した。一体この五十過ぎたおじさんのどこから、そんな女子っぽい単語が出てくるのか。人は見かけによらないものである。和歌子は優しく微笑んで、伝えた。
「じゃあ……考え事がまとまったら連絡ちょうだい。私も自分なりに考えをまとめておくわ」
「わかった。ありがとう」
じゃあ、と哲は駐車場に向かって歩き出す。しかし二、三歩進んだところで振り向いた。