キミと初恋、はじめます。


「知らねーの?先輩さ、華沢の事狙ってる奴すっげぇ睨むんだよ。あの王子って言われてる先輩が、華沢には本気だ……って、男は華沢に手出せねぇわけ」


「そ、そうなの?」



……そんなの、全然知らなかった。


思わず唖然としていると、ふと真面目な顔になった野村くん。



「でもな、華沢。俺みたいな男だけじゃねえって事覚えとけよ。先輩だって常に華沢の事守れるわけじゃねぇんだからな」


「え?……う、うん」



お、男?

あたしが気をつけてるのは、あの取り巻きの女の子達なんだけどな……。



「…絶対わかってねぇな……」



頭を抱えた野村くんに首を傾げる。



「とにかく!気を付けとけよ。なんかあったら俺にも頼れ。友達として……な!」



ニッと笑った野村くんに、キュッと胸が締め付けられた。


傷ついてるはずなのに。

辛いはずなのに。


それでも笑顔であたしを心配してくれる野村くんは、どれほど優しい心を持ってるんだろう。



「……ありがとう、野村くん」



精一杯笑って、心からの言葉を口にする。


友達って言ってくれて、ありがとう。


野村くんにも、新しい大好きな人、出来るといいね。


そんなあたしの心の声が聞こえたかのように、野村くんは優しく笑ってから踵を返した。



「買い出しくらい俺だけで十分だから。華沢は、衣装に戻れ!」



タッと駆け出しながら言った野村くんに、あたしは小さく頷いた。


踵を返したとき、野村くんの瞳に光るものが見えたのは……きっと気のせいじゃない。


それでも笑顔でいてくれる彼に対して、あたしができるのは……



「野村くん!」


「ん?」



立ち止まって振り返った野村くん。


やっぱりその瞳は少し潤んでいるけれど。



「っ……学園祭!楽しもうねっ」



精一杯の気持ちをこめて、笑顔でそう言った。



「おうっ」


そんなあたしにちゃんと応えてくれるキミは、やっぱり委員長に向いてるよ。

あたしなんかより、ずっと。


また駆け出していく野村くんの背中に、あたしはまた小さく「ありがとう」と呟いた。
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