キミと初恋、はじめます。
階段を降りている最中に気づく。
「……お父さんの、声……?」
週末だけしか帰って来ない……お父さんが、なんでいるの?
無意識に足音を消して、そっとリビングの扉に近づいた。
「……早い、のね。今回は随分」
「そうだな。実際の転勤は11月だから2ヶ月先だが……」
てん……きん?
────────…バンッ!
「っ……シキ、聞いてたの?」
「シキ……」
突然リビングの扉を勢いよく開けたあたしに、お母さんとお兄ちゃんが腰を浮かす。
お父さんは、少し眉を寄せただけで何も言わない。
「……お父さん」
「…乱暴に扉を開けるんじゃない。はしたないぞ、詩姫」
いつも、こうだ。
昔からずっとお父さんは、厳しい人だった。
久しぶりに顔を合わせても、優しく笑いかけてくれるなんて事はない。
あたしだけじゃなく、お兄ちゃんやお母さんに対してもそれは変わらなくて。
喉の奥からこみ上げてくる熱いものを飲み込んで、ただ静かに扉を閉めた。