キミと初恋、はじめます。
『……詩姫か』
「そう、だけど」
電話の向こうから聞こえてきた無機質な声。
心が少しずつ、かたまっていく気がした。
「なにか、用……?」
早く、早く切りたい。
それだけがあたしの頭に回っていた。
『……はぁ』
「っ……」
電話越しに溜息をついたお父さん。
「用がないなら…っ」
『詩織が倒れた』
あたしの声を遮った、お父さんのその声は、さっきと全く変わらない無機質なもの。
でもその内容は、とてもサラリと聞き流せるようなものじゃない。
「どういう、こと」
お母さんが、倒れた?
意味がわからない。
『そのままだ。昨日、詩織が倒れて運ばれた。検査結果はまだ出ていないが、暫く入院になるらしい』
検査結果が出てないのに、暫く入院?
「……あまり、良くないものってこと?」
矛盾したその言葉に、あたしの頭に最悪の事態がよぎる。
『そうだろうな』
虚しくも肯定したお父さんの言葉は、あたしの胸を強く締め付けた。
なんで、なんでこの人は、お母さんがそんな時にこんなに普通でいられるんだろう。
無機質な、感情なんてどこにもこもっていない、声。
人間なのかさえ、疑わしくなる。
グッと唇を噛み締めた。