キミと初恋、はじめます。
「明日の夜に読めばいい?」
「うん」
「わかった。じゃー、もう遅いから、ちゃんと寝るんだよー?」
翔空はあたしの頭をもう一度優しく撫でて、いつもの柔らかい笑顔を見せた。
「おやすみ、シキ」
そう言って、歩いて行く翔空の背中を見つめて、また涙が零れた。
「……ばいばい、翔空」
小さく、本当に小さくだったのに、数10メートル先の翔空が振り返った。
聞こえていたのか、聞こえていないのかわからないけれど、翔空はあたしに手を振った。
あたしは、それに微笑んで。
また歩き出した翔空に、背を向けた。
「っ……っく……」
さよなら、翔空。
勝手な事をしてるのはわかってるよ。
でも、あたしはお母さんのそばにいてあげないといけない。
翔空への気持ちは、嘘じゃなかったよ。
もう会うことも無いのかな。
行き先なんて書かなかったから。
だって、中途半端に別れたら、きっとあたしは道に迷っちゃうと思うんだ。
強くなくて、ごめんね。
誰よりも大好きなキミと別れる今日は、クリスマスイブ……そして、あたしの誕生日。
忘れる事はきっと出来ないけれど、どうか翔空は幸せになって欲しいです。
あたしに、たくさんの幸せを……たくさんの笑顔をくれてありがとう。
今まで、ありがとう。
あたしの瞳からポタッと落ちた涙は、この気持ちと反して、どこまでも透明な気がした。