ほしいもの
普通の1
もうフリーターでいいよね。

隣で友達が笑う声に合わせて、私も曖昧に笑う。
きっちりリクルートスーツを着て、
いつもは意地でも上げない前髪をきちんと横に留めている彼女は、
煙草の煙を長く吐き出しながら、
不快そうな笑顔を貼り付けている。

大学の学食では、同じようにスーツ姿の学生が、
用もなく集まり、就活に疲れた気持ちを慰めあっている。
例外に漏れず私もその中にいて、
スーツのまま煙草を吸っている。

仕事はしたい。それなりでも生活がしたいから。
就職したい。惨めになりたくないから。
そんな動機しかなく、なりたいものもやりたいこともわからない。
でも、私だけがつらいとは思わない。
大体がこんなものだとわかっていた。
メンソールを潰して、くわえる。

「リク、今日選考?」
「んーん、説明会。」

そう答えながら、煙草の臭いがスーツについたらまずいかと、
今更気付いた。
吸い始めたばかりの煙草を、名残惜しく消す。

今日は塾の説明会だ。
別に塾で働きたいわけではない。
それなりに勉強はしてきたし、という、ただそれだけだ。

私は友達に適当に挨拶をし、学食を出た。

退屈な説明会だったら寝てしまいそうだ。
< 1 / 10 >

この作品をシェア

pagetop