ほしいもの
就活にお金をかけるのにどうしても気が乗らず、
スーツや鞄、靴も、安物を買った。
でも、ちょっと失敗だった。これでは就活にも気が乗らない。
俯きながら、無表情な黒いパンプスが音を立てている様子を眺め歩いていた。

そのとき、ぷつり、と渇いた音がして、
靴のストラップが地面に垂れた。
外れた、と思い手を伸ばすと、それは、
外れたのではなく、千切れているようだった。

何、もう。こんなことなら行かないよ?

口の中で小さくつぶやく。

立ち止まり、何度か足を振ってみる。
だらしなくストラップが揺れる様を見て、
溜息をついていた。

「千切れたの?」

つむじの辺りから声がした。
はっ、と顔を上げると、そこは売物で賑やかな店先で、
くわえ煙草で掃き掃除をする人がいた。

「千切れた?」

煙草を持つ手で私の足元を指して、聞き直してくる。

「あ、そう、そうみたいで。」

私は愛想笑いを浮かべて、頷く。
そのお兄さんは、あちゃー、と言いながら、
私の方に近づいてくる。
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