ほしいもの
そのままその人は私の足元にかがみ、靴を確認し始めた。
スーツとはいえスカートの、ストッキングがあるとはいえ足元に、
急に触れるほど近寄られ、どうしても身体が緊張する。

「いや、あの、大丈夫…」

少し、甘い匂いがする。そこに煙草の匂いが混ざる。
私は、今はこのラッキーをいただいておこう、なんて、
下らないことを考えたりした。

「靴だけでもちゃんとしたの買えばいいのに。」

まるで拗ねるように言われ、子どもっぽさにキュンと来て、
それでも言われたことにムッとし、
でもすぐに恥ずかしさが襲った。
安物だってバレてる。この人はもしかしたら慧眼かもしれない。

「はい、どうぞ。」

私が、キュンとしてムッとして恥ずかしがっている間に、
その人は店の扉を開けて、自然と私を呼ぶ。
まるでもともとここに用事があったみたいに。
だから私もごく自然にその店に入った。
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