イジワル同期とスイートライフ
おい、と声をかけられて我に返った。
目の前に、記憶と同じ顔があって、ぎくっとする。
残暑というほどの気候でもないのに、身体が汗ばんできた。
久住くんは冷静な目で私を見据え、静かに言った。
「俺は自信ない。チャンスがあったら次もたぶん、抱く」
口の中がからからだった。
なにも言えなかった。
淡々と言い放って、久住くんは足早に、オフィスへの帰り道を歩く。
前方から、ほかのメンバーの会話する声が聞こえてくる。
自分の足が止まっていたことに気づいて、はっとした。
小走りで追いつくと、彼が振り返る。
「返事は」
「…わかった」
「それどういう意味」
「つきあうって…意味」
言わされている、という空気を隠せなかった私を、久住くんは軽く笑って許した。
「じゃ、よろしく」
そう言って、私の背中とも腰ともつかない場所をさりげなく叩く。
傍から見れば、気安い同期のスキンシップにも見えるだろう。
けれど触られたほうには強烈なメッセージが届く、絶妙な位置。
自分たちがどういう関係だか、忘れるなよ、って、そんなメッセージ。
私は情けなくも、びくっと反応し、彼にわからないよう震える息をついた。
──これはいったい、どういう事態なの。
目の前に、記憶と同じ顔があって、ぎくっとする。
残暑というほどの気候でもないのに、身体が汗ばんできた。
久住くんは冷静な目で私を見据え、静かに言った。
「俺は自信ない。チャンスがあったら次もたぶん、抱く」
口の中がからからだった。
なにも言えなかった。
淡々と言い放って、久住くんは足早に、オフィスへの帰り道を歩く。
前方から、ほかのメンバーの会話する声が聞こえてくる。
自分の足が止まっていたことに気づいて、はっとした。
小走りで追いつくと、彼が振り返る。
「返事は」
「…わかった」
「それどういう意味」
「つきあうって…意味」
言わされている、という空気を隠せなかった私を、久住くんは軽く笑って許した。
「じゃ、よろしく」
そう言って、私の背中とも腰ともつかない場所をさりげなく叩く。
傍から見れば、気安い同期のスキンシップにも見えるだろう。
けれど触られたほうには強烈なメッセージが届く、絶妙な位置。
自分たちがどういう関係だか、忘れるなよ、って、そんなメッセージ。
私は情けなくも、びくっと反応し、彼にわからないよう震える息をついた。
──これはいったい、どういう事態なの。