イジワル同期とスイートライフ
「まあ、機会があれば伝えとくわ」

「賢児って呼ばれてたんだね」

「あいつ、そんな話もしたの?」



…私の前で呼ばれて、返事していたじゃないか。

気づいてもいなかったのか。

当時を思い出しているのか、ぼんやりした様子でビールを飲んでいる。

その横顔を見守っていると、ふいに視線がこちらを向いた。



「浮気されたことあんのか」

「え?」



なに、さっきの話?

軽くうろたえて、缶の水滴を無意味に指で拭いながら、目をあちこちさせた。



「実は、一度ある」

「かわいそうにな」



右手が伸びてきて、私の頭をよしよしとかき回した。



「まあ、されるほうにも原因がって言うし」

「んなわけねーだろ、するほうが悪いよ」



学生時代の話だし、ふたりの仲が冷えた後のことだったから、ショックではあったものの、トラウマになるほどつらい思い出でもないんだけれど。

でもこんなふうにしてもらえるなら、浮気されておいてよかった。

なんて現金なことを思う。



「久住くんも、私の昔の話とか、気になったりする?」



ハーブチーズの箱を開けていた久住くんが、「え?」と聞き返してから、なにやら思案し、やがて首を振った。



「いや」



まあそうだよね。

私が手を出すと、チーズを何個か載せてくれる。



「気にはなるけど、聞きたくはない」

「え、どういうこと?」

「微妙な気分になるってこと」

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