イジワル同期とスイートライフ
 * * *


「いやいや、ほんとむかついて別れましたよ、ちょけた男でしたわマジで」



週明け、ちょっと打ち合わせたいことがあったので会えないかと打診したら、「会社の金で女子ランチミしましょう!」と花香さんがお店を予約してくれた。

いかにも女子会に向いていそうな、ハワイアンカフェだ。

会話が流れていくうちに、いつしか久住くんの話に行き着き、本当に気にしないからどうか本音でとお願いしたところ、徐々に花香さんは舌鋒の鋭さを取り戻し、こんな感じになっている。

うん、これは女子会だ、完全に。



「でも、息は合ってるのに」

「いや、それはこういう関係で再会したからで。当時は冗談じゃなくて、本気を込めて言い合ってたんで、ボロボロでしたよお互い」



そういうものかあ。

本人たちじゃないとわからないことなんて、たくさんある。

それはもう、人のこと言えない。



「それで距離置いたんですよ」

「だから、冷戦」

「です」



ハイビスカスの添えられたドリンクをすすりながら、花香さんがうなずいた。



「六条さんは? これまでそういうバトルになった相手っていました?」

「ないなあ、私けっこう、言いたいこと飲み込むタイプで」

「そんな感じします、でもダメですよ、特にあの男相手には。言いたいこと全部言ったって、気持ちなんて半分くらいしか届かないんですから」



ぎくっとした。

全部言ったって届かない。

それって真理かもしれない。



「まあ、私はこのとおり、わがままなんで、向こうを疲れさせてた自覚はありますよ、今思えばですけどね」



食事をあらかた片づけたところで、仕事の話に入った。

社員のタイムテーブルなど、細かな相談をしながら、さっき聞いたフレーズが頭にこびりついて離れなかった。


昨日の引っ越しはつつがなく済んだ。

集中して荷ほどきしたいだろうと、私は早々に退散してきた。

夜に、だいたい片づいたという進捗報告と、引っ越しを手伝ったことへの感謝のメッセージが簡潔に届いて、それで終わり。

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