イジワル同期とスイートライフ
今日は会社でも会えていない。

正直さみしい。


でもそんなこと言ったって仕方がない。

でも言わなきゃ届かない?

でも届けたら、それはわがまま?


でも、でも、でも。


私って、いまだにこういうの、ヘタクソだ。

どこまで伝えてよくて、どこからがダメなのかがわからない。

まったく成長していない。



「六条さん、大丈夫です?」

「えっ、すみません、なんでですか?」

「ため息ついてましたよ、何度も。あの男のことでお悩みなら聞きますよ。代理でぶちのめすとかもやりますよ」



シュッシュッとシャドーボクシングの真似をしてみせる彼女に笑わせてもらってから、大丈夫ですよ、と強がった。





「六条」

「わっ」



一階上に行くために階段を上がっていたら、いきなり目の前に書類がかざされて、つまずきそうになった。

半階上にいる久住くんが、手すりから腕を垂らし、こちらを見下ろして笑っている。



「びっくりした」

「これ、忘れもん」



踊り場まで下りてくると、上着の内ポケットからなにか取り出した。

私のシュシュだ。



「あれっ、ごめん、そういえば」



引っ越しのとき、髪をほどいてそのまま置いてきてしまったのだ。

後でよかったのに、と言おうとして、後なんてないじゃない、と気がついた。

家に帰っても、久住くんはいないんだよ、バカ。

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