イジワル同期とスイートライフ
「…ありがと、わざわざ」

「部屋片づいたからさ、週末とか、来いよ」

「行く行く」

「周辺の店散策したいんだけど、ひとりだとさみしい」

「いいね、気になるとこ目星つけておいてよ」

「あ、そこのきみね、ちょうどよかった」



いきなり男性の声がした。

振り返って、うわっと思わず身構える。

この間の、営業課の人だ。



「特約店会議の、当日の動きについてなんだけど、早く部長と本部長に説明をしてほしいんだよね」

「はい、来週、ご説明のお時間をいただいています」

「えっそうなの、来週じゃ遅いよ、すぐやって、すぐ」

「承知しました」



来週を指定してきたのは向こうです、とここで言っても始まらない。

そこに向けて資料を整理しているので、すぐやるとなると、仮の情報しか渡せなくてお互い二度手間になるけれど、これも今説明しても無駄だろう。

本部長はスケジュールが過密な上に、思い立ったらすぐ、の人なので、営業課の彼も、おそらくそれに振り回されているのだ。

ここはまあ、助け合いだ。



「すぐ調整します」

「よろしくね」



言い置いて、彼はさっさと階段を上っていってしまった。

私はカスタマー部門に行く用事を後回しにして、フロアに戻ることにした。



「急がないと、じゃあね」

「おい…」



階段を下りかけたところを、腕を掴んで引き止められる。

振り返ると、久住くんが眉をひそめて、なにか言いたそうにしていた。



「なに?」

「あ、いや」



手を離して、口ごもる。



「お前さ、なんかもっと、主張しろよ」

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