イジワル同期とスイートライフ
幸枝さんのほかには時田(ときた)課長、それからもうひとり、久住くんと並んで座っている男性は、海外企画課の永坂(ながさか)課長だ。
つまり久住くんの上司だ。
私が席につくと、時田さんが確認してきた。
「六条さん、僕が展開したメール見るひまなかったよね」
「はい、すみません、なにかいただいてましたか」
どうやら外出している間に、動きがあったらしい。
議題を把握していないのは私だけのようだった。
「海外企画さんから要望というか、提案をいただいてね、WDMの冒頭で、特約店への挨拶として、本部長にスピーチをしてほしいと、英語で」
「英語で…!」
それは、絶対無理だ。
本部長は、『日本語しかわからん』を豪語してはばからない人だ。
今でこそ全社的に、英語力が昇進の条件になっているけれど、昔は違った。
英語の試験を逃れて上まで昇った人に、英語が苦手な人は多い。
特に国内事業本部は、海外事業そのものにアレルギーがある。
その象徴である英語を、人前で喋らされるなんて、屈辱以外の何物でもない。
「海外の特約店が一斉に集まる、初めての機会です。現状では、会議の冒頭はMCの簡単な挨拶で始まるとありますが、我々としてはもう少し形が欲しいのです」
永坂さんが、柔らかな口調ながらも、きっぱりと言う。
時田課長と同世代だろうか。
フレンドリーに見えて抜け目のなさそうな物腰が、久住くんと共通している。
私は手元の資料でタイムテーブルを確認した。
20分ほどであれば、スピーチを追加すること自体は、可能だ。
「同時通訳では、ダメなんでしょうか。スピーチの場には国内の特約店もいることになります。半数以上が彼らなのに、あえて英語というのは」
「海外の特約店を呼ぼうと言っていただいたのは、その国内の方々に対し、我々はグローバル企業であり、世界を見て動く必要があることを知ってもらいたいから、でしたよね」
逃げ道を封じるように、ぴしゃりと言ったのは、久住くんだ。
確かに私たちの課はそう説明して、久住くんたちの課の協力を仰いだ。
でもそれは、あくまで大目的であって。
方便だったとまでは言いたくないけれど、そのためならなんでもできるかと言ったら、そうじゃなくて。
…こんな提案したら、本部長がどれだけ激昂するか、目に見える。
つまり久住くんの上司だ。
私が席につくと、時田さんが確認してきた。
「六条さん、僕が展開したメール見るひまなかったよね」
「はい、すみません、なにかいただいてましたか」
どうやら外出している間に、動きがあったらしい。
議題を把握していないのは私だけのようだった。
「海外企画さんから要望というか、提案をいただいてね、WDMの冒頭で、特約店への挨拶として、本部長にスピーチをしてほしいと、英語で」
「英語で…!」
それは、絶対無理だ。
本部長は、『日本語しかわからん』を豪語してはばからない人だ。
今でこそ全社的に、英語力が昇進の条件になっているけれど、昔は違った。
英語の試験を逃れて上まで昇った人に、英語が苦手な人は多い。
特に国内事業本部は、海外事業そのものにアレルギーがある。
その象徴である英語を、人前で喋らされるなんて、屈辱以外の何物でもない。
「海外の特約店が一斉に集まる、初めての機会です。現状では、会議の冒頭はMCの簡単な挨拶で始まるとありますが、我々としてはもう少し形が欲しいのです」
永坂さんが、柔らかな口調ながらも、きっぱりと言う。
時田課長と同世代だろうか。
フレンドリーに見えて抜け目のなさそうな物腰が、久住くんと共通している。
私は手元の資料でタイムテーブルを確認した。
20分ほどであれば、スピーチを追加すること自体は、可能だ。
「同時通訳では、ダメなんでしょうか。スピーチの場には国内の特約店もいることになります。半数以上が彼らなのに、あえて英語というのは」
「海外の特約店を呼ぼうと言っていただいたのは、その国内の方々に対し、我々はグローバル企業であり、世界を見て動く必要があることを知ってもらいたいから、でしたよね」
逃げ道を封じるように、ぴしゃりと言ったのは、久住くんだ。
確かに私たちの課はそう説明して、久住くんたちの課の協力を仰いだ。
でもそれは、あくまで大目的であって。
方便だったとまでは言いたくないけれど、そのためならなんでもできるかと言ったら、そうじゃなくて。
…こんな提案したら、本部長がどれだけ激昂するか、目に見える。