イジワル同期とスイートライフ
「六条さん、根詰めすぎじゃないですか」

「えっ」



須加さんがメモを取りながら私を見て、気遣うように笑った。



「もう少し僕らを使ってくださっていいですよ、今回の件も」

「もちろん、お任せしてます、むしろ頼りきりで」

「でしたらもっと楽にしていていいんですよ、汗なら僕らがかきます」



本部長のスピーチを入れ込むには、あちこちに調整が必要になる。

機材、他の役員導線、ホテル、タクシー、案内スタッフ、等々。

須加さんは話を聞くとすぐに飛んできて、嫌な顔ひとつせず、それらの整理を請け負ってくれた。



「リハーサルも追加ですね」

「あっ、そうですね、入りの時間を変えなきゃ。一度ホテルかな…」

「アーリーチェックイン可能ですよ」

「本当ですか、じゃあそれでスケジュールを引き直します」

「今度、飲みに誘っていいですか」

「はいっ?」



あちこちに訂正事項を書き入れていた私は、思わず素っ頓狂な声をあげた。

優しげに整った顔が、楽しそうに微笑んで、こちらの反応を探っている。


…須加さんて、いくつだっけ。

確か3つか4つ上のはず。

そうか、花香さんて、このくらいの世代の人と結婚するんだ。



「六条さんて面白そうなので、一度じっくりお話したかったんですよね」

「ご期待には沿えないかもしれませんよ」

「僕が誘ったら、まずい人います?」



そつのない言葉選びに、さすがだなと感心してしまう。

明らかに男の人としての誘いであるのに、仕事上のつきあいを出ないようなニュアンスでまとめられている。


"まずい人"

浮かぶのは久住くんの顔。

相手がいるのかと訊いてもらえたら、うなずくくらいはできただろうに。

こんなふうに曖昧に投げられたものを、いますとくっきり縁取って返せるほど、私には自信がない。

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