イジワル同期とスイートライフ
…まあ、そうなんだろうけどね。



『リコちゃんだって、賢児くんにこのくらい、書くでしょ?』

「いやいやいや」



賢児くんにどころか、人生においてこんな文章、一度だって書いたことない。

私がやったらいたずらと思われて終わりだ。



『でも、気持ちはあるでしょ?』

「いや…ここまでは」

『素直じゃないなあ』



優しい声が、胸に刺さった。


ねえお姉ちゃん、素直ってなに?

たとえば今、私ね、久住くんに会いたくて仕方ないの。

仕事の上ではいろいろあるけれど、そういうの全部横に置いておいて、うちに住んでいたときみたいに、じゃれあったりできないかなって思っているの。


でもそんなこと、伝えたくないのも本当の気持ち。

だって拒否されたら怖い。


これって素直なの、素直じゃないの?

ぶつけるのが素直で、黙っているのは素直ではない?

どちらも自分の気持ちのとおりだとしても?



『賢児くんとうまくいかないの?』

「うーん…どうなんだろう」

『お姉ちゃんを見習って、会いたい大好きって書いたらいいよ』

「無理だって、引かれるよ」

『なんで、自分が書いてもらったら嬉しくない?』

「まあ、書き方はともかく、気持ちは、嬉しくは、あるけど」

『ほらあ、みんな嬉しいのは同じ。どうして賢児くんは違うって思っちゃうの』



それはね、自信がないからだよ。

お姉ちゃんみたいに、愛して愛されている自信が、全然ないから。

そもそもそんな関係でもないからなんだよ。


電話を切って、なんだかくたびれて、シーツに顔を伏せた。

もうシャワーを浴びる必要もないし、このまま寝てしまえ。

週末に、枕カバーもシーツもまとめて洗おう。

恋しいだけの匂いなんて、さっさと消すに限る。

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