イジワル同期とスイートライフ
幸枝さんが補足すると、時田さんは「なるほどなー」と目を丸くした。



「豊作な代だね。なんでか同じ年次に集まるんだよね、そういう人たちって」



そうなのかもしれない。

優秀すぎたのか、すぐに辞めてしまったけれど、いまだに業界の最先端を行く受注システムを、新人時代に開発して導入した子なんかもいた。



「私もがんばります」

「いやいや、乃梨子ちゃんも入ってるんだって、最初から」

「え?」

「ですよね課長」

「ですよ、ちょっとおとなしすぎるところはあるけど、優秀さは負けてないよ」



なんと言えばいいのかわからなくなり、PCを叩きながら「そうでしょうか」と気弱に答える。



「そろそろ花開くと思うんだ、この間も見事だったし」

「代理店さんの間では、乃梨子ちゃんの仕事ぶりは大人気なんですからね。社内が遅れてるんです」

「どんどん活躍の場を作ろう」

「社内ゴルフコンペに出てもらおう」

「微妙に関係なくないですか、それ」



ひとしきり笑ってから、お礼を言いそびれてしまったと気がついた。

もっと素直に「ありがとうございます」と、ただそれだけでよかったのに。


──素直。


ああ、と少しわかった気がした。

素直って、自分だけの話じゃないんだ。

受け取る相手がいるものなんだ。


誰かが素直になると、誰かが嬉しい。

少なくとも私の欲しい素直さは、そういうものだ。


ひとりよがりの素直さは、なにも生まない。


…今さら気づいたって遅いよ。

ひねくれた気分で、そんなことを独りごちた。


 * * *


「以上です、ご質問がありましたらぜひ」

「もし早めにお客様がいらしたら、どうすれば?」



海外営業部の、各課の代表数名ずつを集めた場で、次々に声が上がった。

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