イジワル同期とスイートライフ
WDMもいよいよ目前に迫っている。

実際に当日、お客様のアテンドを務めてくれる営業部に、スケジュールや段取りを説明したところだった。

20名ほどの若手が、四角く並べられた机を囲んでいる。

久住くんは運営を把握している立場として、説明者側に座っていて、すなわち私の隣にいた。



「ホワイエでお待ちいただくようご案内ください。ディナーパーティの前にはウェイティングカクテルをご用意しています」

「パーティは立食ですか?」

「そうです」

「ベジタリアン向けのメニューは充分に用意されていますか?」



これの答えは久住くんが引き取った。



「問題ありません。豚、牛などの宗教的なタブーにも配慮してメニューを決めています。当日、すべての食材を記載した品書きをお渡しします」



明快な返答に、質問した人が満足そうにうなずいた。

胸をなで下ろした。

これは久住くんが早くからアドバイスをくれていた部分で、言われるまで私たち国内部門は、まったく意識をしていなかった。



「それから注意点として」



久住くんが続けて発言した。



「初めて来日する方も多いので、役員への挨拶が殺到する可能性があります。長く拘束しないよう、適切な通訳とアテンドを心がけてください。それとディナーで飲みすぎないこと、特にロシア担当!」



どっと笑いが起こる。

久住くんは一度も、私のほうを見なかった。


 * * *


「六条さんっ、お疲れさまでございます」



プレゼンのリハーサル会場に、花香さんが顔を出してくれた。

明日のバスツアーの準備で忙しいだろうに、山ほどの差し入れを抱えている。



「すごい、ありがとうございます、こっちまで気遣っていただいて」

「いえいえ、弊社の担当はツアーのみですが、大きなイベントの一部なわけですから、関係するところものぞかせていただきたいんですよ」

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