イジワル同期とスイートライフ
つまりは最初から
嫌な夢を見た気がして目が覚めた。

全身がひんやりと汗で湿っている。

夢の内容は覚えていない。


久住くんと連絡が取れなくなって、丸一日が過ぎていた。

不運にも土曜日。

永坂さんたちから情報をもらうこともできない。


現地からのニュースは、日本の政治家の汚職疑惑のネタに取って代わられて、だんだんと扱いが少なくなっていた。

その中から読み取れる限りでは、事態に収束の気配はない。

なにをする気も起こらず、ネットの情報を追いかけながら時間を過ごしていたら、インタホンが鳴った。



「あらあ、それは心配だ…」

「私が心配したってしょうがないって、わかってるんだけど」



またしても突然やってきた姉は、私を見るなり「どうしたの」と驚いた。

どうやらそれなりに、憔悴した姿をしていたらしい。



「そんなことないよ、リコちゃんの心配、賢児くんに届いてるよ」

「どうかなあ」



持ってきてくれたお昼を食べながら、自嘲する。

姉は持ち前の勘のよさで、「ケンカ中だった?」と訊いてきた。



「うーん…まあ、それに近い」

「あのね、どんなにケンカしても、次の朝行ってらっしゃいするときは、笑って言おうね、って、これうちのルールなの。旦那さんと決めたの」



温かいスープをすすりながら聞く。



「うちのお父さん、昔、出勤中に事故にあったじゃない、リコちゃんはまだちっちゃくて覚えてないかな」

「ぼんやりと記憶にはあるかなあ、脚折ったんだよね?」

「そうそう。あの朝お母さんたちケンカしてて、お見送りしなかったんだよね」



どうやら母はそのことを、とても悔やんでいたらしい。

あの気丈な母にも、そんなもろい一面があったのか。



「それがすごく印象に残ってて。だからルールを作ったの」

「いいね」

「そう思うんなら、もっと明るい顔して。シャワーでも浴びてらっしゃい」

「なんか、そういうのも罪悪感で…」

「あのね、それは自己満足! 自分をいじめるのと心配するのとは別だよ。賢児くんだってリコちゃんにはいつもどおり生活してほしいに決まってるよ」

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