イジワル同期とスイートライフ
そっちこそ、なによその普通の態度。

人の気も知らないで。



『じゃ、後でな』

「うん」



タオルで頭を拭きながら、待ち合わせ駅までの行き方を考えた。

すぐ準備して出れば、余裕で間に合う。



「賢児くん、元気だった?」

「あっ、聞くの忘れた…」



でもたぶん元気だと思う。

なんだかもう、拍子抜けするくらい、いつもどおりの彼だった。



「お部屋片づけておくから、行っておいで」

「ありがと」



震える手で服を着て、メイクも髪を乾かすのもそこそこに飛び出した。

慣れない駅でやっぱり迷い、構内図を確認して右往左往している間に、待ち合わせの時刻になっていた。


ようやくたどり着いた改札には、もう久住くんがいた。

壁にもたれ、両手をポケットに入れて、ぼんやりしている。

ふと視線を動かした弾みに私に気づき、ちょっと眉を上げてみせてから、笑顔になった。

それを見たら、声が出なくなった。



「よお、聞けよー、すげえ災難…わあっ!」



駆け寄った勢いそのままにしがみついた。

煙草を吸ってきたばかりなんだろう、そんな匂いがする。



「えっ、え、なに、どうした?」

「心配した…」

「あれ、俺、行き先言ってった?」



周囲を気にしてあたふたしながらも、腕を回して背中をなでてくれる。

優しいその仕草に、目の奥が熱くなる。



「行き先どころか…」



安心したおかげで、いろいろ溜まっていたものが、噴き出した。



「出張自体、聞かされてないよ!」

「いってえ…!」

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