イジワル同期とスイートライフ
みぞおちを押さえて、久住くんが身体を折る。

それなりに効いたらしく、一度深く咳き込んだ。



「お前、きつ…グーって…」

「なに普通に帰ってきて、電話とかしてるわけ? その前に言うことないの」

「絶対そこ言われると思った」

「海外行くときくらい、教えてよ!」

「わかったよ、悪かったと思ってるよ」



私の目つきが変わったのを見て、久住くんの表情に怯えが走る。



「"悪かったと思ってる"っていうのはねえ、状況を説明しているだけであって、謝罪の言葉ではないんだよね…」

「はい、ごめんなさい」

「なにが」

「黙って出張行って」

「それだけ?」

「えーと…心配させて?」



本気で心あたりがなさそうに首をひねるのを見て、なにそれ、とがっくり来た。



「それだけ…?」

「そんなに俺に謝らせたいのか」



責められっぱなしが不服だったのか、今度は久住くんが不機嫌な声を出す。



「反省を促してるの」

「あのな、大変な思いして帰ってきて、記憶だけでお前の番号にかけたんだぞ、ほめてもらってもいいくらいだと思うんだけどな」



いばりだした。

私がほめるの、それ。



「なんで私にかけたの」



どうしてか、今頃涙が出てきた。

久住くんが、ちょっと動揺する。

逃げ場を探すように目をあちこちさせて、やがてふてくされたように言った。



「後悔してたの、やっぱりお前に言ってから出てくりゃよかったなって」



私を見ると、嫌そうに「泣くなよ」と顔をしかめる。

そのくせ目元を拭ってくれる指は、優しい。

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