イジワル同期とスイートライフ
腕の中の私を、大事に可愛がるみたいに、頬にキスをくれる。

涙が溢れて止まらなくなった。

見上げると、久住くんの目が戸惑ったように揺れた。

私の声は、もう涙でぼろぼろ。



「私ばっかり、好きで、でも久住くんは」

「え…」

「一度も好きだって言ってくれない…」



しがみついて、顔を押しつけて泣いた。

これまでの不安とか不満とか、全部ぶつけるみたいに。

驚いたのか、一瞬緩んだ久住くんの腕が、また私をゆっくりと抱く。

これまで経験したことのないくらい、強い力で。



「ごめん」



ぎゅう、と頭ごと抱きしめてくれた。



「ごめん、好きだよ」



泣きじゃくるばかりの私を扱いかねてか、ためらいがちに髪をなでて。

子供にするみたいに、何度も頬をぶつけてくれる。



「なあ、六条…」



困り果てたような声が、耳元に降った。



「好きだよ」



返事なんて、できなかった。


 * * *


「いやー、血相変えて飛び込んできてさ、愛を感じたね」

「ほんとですか、恥ずかしい奴ですね、すみません」



この男…。

永坂さんが私のことを語るのを、涼しい顔で久住くんが流す。

これ絶対、私にいろいろ言わされたこと、根に持っている。


一緒に階段を下りながら、ふたりの会話を聞いた。



「にしても無事でよかったよ、相当危なかったんだろ」

「クーデター自体はね、軍がやってたんで、統率取れてたんですよ。なのにいきがったバカな観光客が、軍人のひとりにケンカ売って」



ひえ、聞いているだけで肝が冷える。

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