イジワル同期とスイートライフ
番外編:それでも俺は悪くない
Part 1
──こいつ、逃げる。
本能が告げて、とっさに捕まえた。
握った手は華奢で、それを意識した瞬間、身体がドクンと鳴る。
いったい自分は、どうしてしまったのか。
手を繋いで歩くなんて、したことがなかったとようやく思い至ったのは、家に着く直前だった。
* * *
「どうしていつまでたっても参加者が確定しないんでしょうか?」
そんなにめくじら立てるなよ。
久住は前にも言ったはずのことを、もう一度丁寧に説明した。
「それは、こちらが会議日程を確定させていないからです。海外から来る場合、拘束期間は長くなりますし、フライトの変更には手間もコストもかかります。来日の機会を使って他の打ち合わせをしたいという考えもある」
何日から何日の、いずれか2日間、なんて曖昧な日程で、重要なポジションにある人間の日程を組むのは無理だ。
「なのでまずは会議日程を固めていただきたいんです」
「それは、こちらも事情があってですね」
「幸枝さん、決めちゃいましょう、もう」
控えめな声が会話に入ってきて、きっぱりと言った。
「でもさあ」
「こちらが決まらないのって、役員日程の関係ですよね。会議に直接関係のない役員は、揃わなくてもいいと割り切りましょう。実際毎年、誰かしら欠席が出ていますし」
「うーん…そうする?」
「時田さんにも相談しておきます」
先輩社員にうなずいてから、六条は久住に向き直る。
「現状の第一候補の日程で進めます。明日中に確定のご連絡を入れます」
「助かります」
こいつが申し訳なさそうにしなくてもいいのにな。
こういう場面で、カバーに回ることの多い同期に、そんな感想を抱いた。
「おう、どうだった?」
「まあ、簡単じゃなさそうですよ」
「主に気持ちの部分で?」
席に戻ると、課長の永坂が興味を隠さず訊いてくる。
肩をすくめただけで、上司の好奇心に答えた。
向井が隣の席で、うなずきながら言う。