イジワル同期とスイートライフ
「向井も興味あるだろ? どんな子?」
「てきぱきしてて、仕事できそうな子だよ、飲むならお前らだけでどうぞ」
「久住、忘れんなよ!」
「それよりお二方、製販の計画書出てませんよ」
「今ちょうどやってるとこなんだな、それが」
蕎麦屋か。
向井もわかっているんだな、と久住は感じた。
今、向井と久住が六条を誘ったりしたら、あの定例会において、彼女が完全に板挟みになり、下手すると向こうで裏切者扱いされかねない。
人間関係が構築されるまで、もう少し待ってやらないと。
それから、あくまで同期として久住が誘い出すほうがいい。
向井まで来てしまうと、彼女の立場がますますややこしくなる。
いつも少し困ったような表情で、おとなしく控えめに、周囲の妨げにならないよう振る舞っている六条。
もとから内気なのかもしれないけれど、もしそうではなく、周囲の空気が彼女をあんなふうに縮こまらせているのだとしたら、国内営業部は相当に腐っていることになる。
まあ、がんばれよ。
半分他人事、半分同情の気分でそう考えた。
* * *
「暑っつ!」
「お疲れ」
弟の和樹(かずき)が、姿を見せるなりネクタイをほどいて鞄に突っ込んだ。
そろそろ来る頃だろうと頼んでおいたビールが、ちょうど運ばれてくる。
「おー、さすが兄貴」
「乾杯、調子どうだ」
「変わんねーよ、歩きまくって汗流してる」
駅ビルの屋上のビアガーデンが営業する季節には、必ず何度かそこで弟と飲む。
ビール好きなふたりの、夏の儀式のようなもので、今年はお互い忙しく、これが初回となった。
「お前、なんか締まったな」
「だって、すげー体力使ってるもん。夏は特に、ガンガン減ってくよ体重」
満足そうに煙草の煙を吐き出しながら、和樹が笑った。
彼は人材業界で法人営業をしている。
新規開拓もルート営業もする、いわゆる外回りだ。
父譲りの甘い二枚目で、人好きのする笑顔をいつも浮かべていて、実際人懐っこい和樹には向いている仕事らしく、業績は年長の社員を差し置いてトップクラスと聞く。
「なんか面白い話ねえの」
「あるよ、鉄道会社が今、こぞってエンジニアを募集しててさ、大量に」
「新駅でもできんの?」
「いや、駅のシステムが一新されるらしい。都内まるっと」
「てきぱきしてて、仕事できそうな子だよ、飲むならお前らだけでどうぞ」
「久住、忘れんなよ!」
「それよりお二方、製販の計画書出てませんよ」
「今ちょうどやってるとこなんだな、それが」
蕎麦屋か。
向井もわかっているんだな、と久住は感じた。
今、向井と久住が六条を誘ったりしたら、あの定例会において、彼女が完全に板挟みになり、下手すると向こうで裏切者扱いされかねない。
人間関係が構築されるまで、もう少し待ってやらないと。
それから、あくまで同期として久住が誘い出すほうがいい。
向井まで来てしまうと、彼女の立場がますますややこしくなる。
いつも少し困ったような表情で、おとなしく控えめに、周囲の妨げにならないよう振る舞っている六条。
もとから内気なのかもしれないけれど、もしそうではなく、周囲の空気が彼女をあんなふうに縮こまらせているのだとしたら、国内営業部は相当に腐っていることになる。
まあ、がんばれよ。
半分他人事、半分同情の気分でそう考えた。
* * *
「暑っつ!」
「お疲れ」
弟の和樹(かずき)が、姿を見せるなりネクタイをほどいて鞄に突っ込んだ。
そろそろ来る頃だろうと頼んでおいたビールが、ちょうど運ばれてくる。
「おー、さすが兄貴」
「乾杯、調子どうだ」
「変わんねーよ、歩きまくって汗流してる」
駅ビルの屋上のビアガーデンが営業する季節には、必ず何度かそこで弟と飲む。
ビール好きなふたりの、夏の儀式のようなもので、今年はお互い忙しく、これが初回となった。
「お前、なんか締まったな」
「だって、すげー体力使ってるもん。夏は特に、ガンガン減ってくよ体重」
満足そうに煙草の煙を吐き出しながら、和樹が笑った。
彼は人材業界で法人営業をしている。
新規開拓もルート営業もする、いわゆる外回りだ。
父譲りの甘い二枚目で、人好きのする笑顔をいつも浮かべていて、実際人懐っこい和樹には向いている仕事らしく、業績は年長の社員を差し置いてトップクラスと聞く。
「なんか面白い話ねえの」
「あるよ、鉄道会社が今、こぞってエンジニアを募集しててさ、大量に」
「新駅でもできんの?」
「いや、駅のシステムが一新されるらしい。都内まるっと」