イジワル同期とスイートライフ
へえ、と思わず驚きの声が出た。



「五輪特需だな」

「だよなー」



そういう情報は、消費者に公にされる遥か以前に、関連する業界にこうして少しずつ出ていくのだ。

これだから、働くってのは面白い。



「兄貴のほうは? 中国に現地工場を検討ってニュース読んだけど」

「いやー、ぶっちゃけ頓挫だな。もう政府があの手この手で介入してくる」

「マジか、早いとこ手引いたほうがいいんじゃないの」

「今、上が社長にぶつけるための提案書まとめてるよ」



そういえばそれのデータ集めを急がないといけないんだった。

頭の中のスケジュールを書き直し、明日片づけてしまおうと決める。



「最近、海外は?」

「来週スウェーデン」

「あ、シュールストレミング!」

「買わねえぞ」



えー、と灰皿で煙草を押しつぶしながら、悪びれない顔が笑う。

ふと、ワイシャツの胸ポケットで和樹の携帯が震えた。

新しい煙草に火をつけながらチェックする、その顔がふっと微笑む。



「彼女か」

「そう、ねえ同棲ってどう思う」

「えっ、すんの?」

「したいって言われてんの。俺もまあ、そろそろかなと思ってるし」



見るともなしに向こうの携帯に視線をやると、親切なんだかなんなんだか、画面を見せてくれた。

【今帰り】とか【今日は遅くなるんだよね?】とか【お兄さんによろしく】とかいう他愛もない会話の最後に、三日月の絵文字と、ハートマーク。

なんだかもう、むずがゆい。



「…いいんじゃねーの、よくわかんないけど」

「母さんがなにかめんどくさいこと言いださないかなあ」

「会わせたことあんだろ?」

「あるけど、彼女の印象どうだったって訊いても、あんま教えてくれなくて」

「あー…」



久住たちの母親は、長男を頼りにし、次男を可愛がるというわかりやすいタイプで、和樹のことはいつまでも子供と思いたがっているふしがある。



「先に父さん丸め込もうかな」

「いやー、逆効果だろ。母さんがへそ曲げたら未来ないぜ」

「そうだよなー」

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