イジワル同期とスイートライフ
うーん、と悩みながらも、なんだかんだ幸せそうだ。

三日月は和樹のトレードマークのようなものだ。

苗字と名前を続けて読むと、後半が"みかずき"となるからだ。

それを最初に見つけたのは幼い久住だったのだけれど、もとは取引相手だった今の彼女も、初めて会ったときに、名刺を見てすぐにそれを指摘したのだとか。

『一発で好きになっちゃったー』と和樹が言いだしたときには、大丈夫かこいつと心配になったものの、結局こうして何年も続いているんだから、わからない。



「兄貴はないの、最近」

「ないな」

「復縁婚とか流行ってんじゃん、あの元気な姉ちゃんどうしてんの?」

「思い出さすなよ、忘れてんだから」



苦々しい思いでぼやいた。

当分、つきあうとかそういうのは考えたくない。



「兄貴は要領よさそうに見えて、わりと手抜くのが下手なんだよな」

「うるせーよ」



和樹の言う通りだった。

お遊びと割り切った関係なら別だが、つきあうとなると、それなりに真剣にエネルギーを注いでしまうので、衝突の衝撃も大きく、損傷が激しい。

ところが相手からすると、久住は何事も上手にいなしそうに見えるらしく、それをあてにして全力でわがままをぶつけてきたりする。

ぶつけられたパワーをどこにも逃がせず、相手の知らないところで本気で疲れてしまう久住は、やがて全部を捨てたくなる。

正直に「もう嫌だ」と伝えてみるものの、それは相手からすると不意打ちに感じるらしく、毎度激怒され、泣かれ、浮気を疑われ、精根尽き果てて終わる。


つきあいが長かった分、直近の別れは消耗した。

つい思い出したらくたびれて、力なく息をついて煙草を吸った。


 * * *


「あ、久住くん」

「おう」



翌日、食堂で六条に呼び止められた。



「会議日程、確定したから。後でメールもするね」

「助かるわ、サンキュ」



本当に助かった。

きっちりと有言実行してくるあたり、彼女らしく頼もしい。



「遅くなってごめんね」



別にお前が謝ることじゃないだろ、と思いながら彼女を見て、気がついた。



「それしか食わねえの?」



ベーカリーコーナーの総菜パンをふたつ持っている。

久住だったら三時のおやつにも物足りないくらいの量だ。

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