イジワル同期とスイートライフ
六条は自分の手元を見下ろして、恥ずかしそうにちらっと笑う。



「あ、うん」



…待っても、特にそれ以上の情報は返ってこなかった。



「あの、じゃあまた連絡するね」

「ん」



遠慮がちに微笑んで、足早に去っていく。

もしかして怖がられているのかとも思ったが、たぶん、同期といえどまったく接点のなかったこの関係では、話すことに困るというだけだろう。

もっとのびのびやりゃあいいのに。



「それ、久住が嫌われてるだけじゃね?」



偶然会って、一緒に食事をとることになった宣伝課の同期、吾川がいかにも適当な考察をした。



「嘘だろ」

「なんで嘘なんて言えるんだよ」

「嫌われる理由がない」

「お前のその自信って、どこから来るの?」



別に自信じゃない、ただの事実だ。

給料の使い道は上からコンパ、女の子、自分磨きだとのたまう吾川が食べているのは、食堂で一番安いメニューであるかけそばだ。

内容はどうであれ、信条を貫く姿勢に敬意を表し、自分の定食の中から唐揚げをひとつ進呈してやった。



「それよりさあ」

「嫌だ」

「まだなにも言ってねえよ」

「どうせまた合コン絡みだろ」

「そんな当然のことが読めたくらいでいばるなよ」

「お前がいばるなよ」

「なんなの? 昔はノリよく参加してたじゃん!」

「いつの話だよ」



思い出すのも恥ずかしいが、確かに学生の頃から新人時代は、そういうのにも誘われるまま参加した。

この子、と決めた相手を落とせたら勝ち、できなかったら負け、と自分と賭けをしているようなもので、なんというか、定期的な自分試しみたいな感覚でいた。

我ながら調子に乗っていた。



「俺、海外営業の子から何度か頼まれてんだぜ、久住と飲ませろって」

「それは別に、合コンて意味じゃないだろ」

「え、じゃあ飲み設定したら来る?」

「うーん…」

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