イジワル同期とスイートライフ
知らず、渋い声が出た。

なんだかんだ、自分は社交という面においては無精なのだと思う。

その場で狩りを楽しむつもりがない以上、そういうものに時間を取られたくない。

仕事仲間や取引先と飲むのは、後に必ずプラスがあるからいい。

でも吾川の言っているのは、それとはたぶん、ちょっと違う。



「クールぶりやがって」



そういうわけでもないのだけれど、面倒なので否定せずにおいた。





そろそろ六条を誘っても大丈夫そうかな、と思えたのは夏も終わる頃だった。



「私と?」

「そう、営業部の人がさ、飲んでみたいって」



定例会の合間の昼食のとき、うどんの有名な店で、ちょうど六条と隣り合わせになったので、持ちかけてみた。

六条は礼儀正しく「嬉しい」と言いながらも、こちらの真意を測りかねているような様子を見せた。

警戒心強いな。



「俺もよく飲むメンツだから、気楽に参加してもらえれば」

「あ…そうなの?」



自分のために開催された会じゃないと知り、安心したのか、ほっと微笑む。



「楽しみにしてる」

「あ、じゃあ連絡先もらっていい?」

「うん」



このときまで、電話番号も知らなかったのだ。

同期といえど、取り立てて近い存在と感じたこともない。

久住にとって六条は、そんな相手だった。

このときまでは。


 * * *


「えー、じゃあセクハラなんかも普通にあるんだ?」

「セクハラというのか、まあ肩を抱かれたり膝をなでられたりは、しょっちゅう」

「訴えなよ!」

「耐えられなくなったらそうしようかな」



六条が楽しそうに笑う。

なんだこいつ、普通におしゃべりできるんじゃん、と意外な思いでそれを見た。

連れてきておいて、おとなしすぎたら先輩ふたりに悪いなと思ったのだが、杞憂に終わった。

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