イジワル同期とスイートライフ
「案外平気なんですよ、分別のある方にはちゃんと心配していただけますし」

「そんなもん?」



場のハイペースにしっかり乗り、もう5、6杯目になるハイボールを傾けながら彼女がうなずく。



「ああいうのって、一番つらいのは、理解者がいないことだと思うんです。あ、久住くん、これもうひとつ頼んでもらっていい?」

「了解」



久住がメニューを見ていたのに目ざとく気づき、茶豆のざるを指してきた。

意外とちゃっかりしていて、思っていたよりずっとよく笑う。



「国内で、なんか面白い事例とかないの」

「面白いって?」

「俺らの参考になりそうなさ」



この機会に、もらえるだけ情報をもらおう。

少し聞いただけでも、六条の市場に関する知識は広くて深く、正確だ。

たまにいかにも女性らしい感覚的な洞察が入ったりして、聞いていて面白い。

六条は腕を組んで、うーんと困ってみせた。



「バーチャルショールームっていう構想があってね」

「webの施策?」

「そう、ハンドリングは促進課なんだけど…」



売上が伸び悩んでいようが、国内の予算は潤沢だ。

パートナーとなる広告代理店がいて、販促も宣伝もがっぷり四つに組んで、あの手この手で顧客を絡め取る。

勉強したいとずっと思っていた。

落ち着きがありながらも、酒のせいかどこかふわふわ陽気な六条の説明を耳に心地よく聴きながら、こいつともうちょっと、じっくりかかわりたいなと考えた。



──かかわるって、こういう意味じゃなくね?


翌朝、思いがけず泊まってしまった六条の部屋から通勤する途中、寝不足と二日酔いを抱えて首をひねった。

隣には同じく少し眠そうな顔の六条が立っている。

ある駅でどっと人が乗り込んできて、ふたりは反対側のドアに押し流された。



「各駅ってここで混むのな」

「そうなの、でもみんな同じところで降りるから」



この朝の混雑の中、男女が会話しているというのは妙な詮索を招く。

お互いそれを理解しているため、言葉少なに電車に揺られた。


六条の髪から、夕べ散々嗅いだ香りがする。

軽く伏せられた瞼を見下ろしているうち、ふらっと唇を寄せそうになり、我に返って慌てた。

なにやってんだ、俺。


ふと六条が視線を上げたので、こちらの動悸がばれたのかと、ぎくっとする。

< 183 / 205 >

この作品をシェア

pagetop