イジワル同期とスイートライフ

Part 2

初めて六条と外出したときのことだった。

お互い予定がないというだけで、ふらっと街に出て、なにをするでもなく昼食をとり、適当な店を見て、ショッピングビルの中のカフェに入った。

この"お茶を飲む"って行為は女特有だよな、なんて考えながら、なにか腹に入れるか夕食まで我慢するか悩んでいたとき、携帯が鳴った。



「あ、わり、仕事だ」

「いいよ」



六条に断って、店を出る。

中央が吹き抜けになっているビルの中は、中途半端な時間帯を持て余したようなカップルたちが漂っていた。


相手は今新しく特約店契約を結びたいと言ってきている、東南アジアの販売会社の人間だった。

休日に申し訳ないと恐縮してから、事情があって書類の提出が遅れる旨を説明してくる。


真面目だなあ、と感心しながら、念のため理由を確認した。

アジアとひと口に言ってもいろいろな国があるが、東南エリアには特に、日本と同じような"働き者"のにおいを感じる国がある。

熱心で向上心があり、協調性がある。

加えて、日本にはない貪欲さや、他者を蹴落とすことを厭わない冷徹さも持っているのだから、そりゃあ急成長するのもうなずける。


そんなことを考えながら通話を終えて、後で上司に報告する文面を頭の中で練りつつ店内に戻ると、窓際の六条が目に入った。

頬杖をついて、ぼんやりと窓の外を見ている。

それからストローでドリンクを飲み、ふと気づいたようにバッグを探ると、小さな香水の瓶を取り出して手首につけ、もう一方の手首とこすり合わせるようにしながら、また窓の外を眺めていた。


携帯見たりとか、しないんだな。


席を外した久住を、ただ"待っている"その様子に、自分でも驚くほど心を揺らされ、なんだこれ、と何度目かになる戸惑いを覚えた。

なんだこれ。


 * * *


「嫌だ、って」

「嘘つくなよ」

「嘘じゃな」



続きは小さな悲鳴になって消えた。

ほら、嘘だろ。

お前だってもう、欲しくて仕方ないくせに。

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