イジワル同期とスイートライフ
今でもあの場面を思い出すと、動揺する。

たぶん六条は気づいていない。

別に答えられなくて戸惑ったんじゃない。


──どこが好き?


いっぱいある。

仕事の細やかさとか。

人見知りに見えて、実はしっかり鍛えられている話術とか。

真面目そうなのに、ちゃんと冗談が通じるところとか。

暮らしが丁寧で、たとえば久住の使ったカップがいつの間にか下げられて、ゆすがれていたりとか、でも押しつけがましくないところとか。


答えてしまいそうになって、焦ったのだ。

訊かれたとたん、急に溢れてきて、びっくりしたのだ。



「おーい、どこ行っちゃってんの」



駒井に肘で小突かれ、はっとした。



「あ、えーと、なんでしたっけ」

「中身だよ、中身、彼女の」

「別に普通ですよ、駒井さんこそ、奥さんどんなタイプ?」

「俺の話はいいんだよ」



人のは聞いておきながら、恥ずかしがって答えようとしない駒井を笑った。

その陰で、胸元のシャツを掴んだ。

布越しに、ドクドクと脈打っているのがわかる。


あれ…。

あれ、なんだこれ。


なんだこれ?


 * * *


「運営会議にか、なるほど」

「確かにそれが一番早いですよね、反則技っちゃ反則技ですけど」

「うん、いいと思うよ」



帰国後、向井と仕事の引継ぎをしているとき、そんな話になった。



「補充がないってのはきついですよねえ」

「ほんとだよなあ、お前も早めに永坂さんに泣きつけよ。これでこなしちゃったら、人事の思うつぼなんだからな、ほら補充しなくてもできたでしょって」

「駐在の話が出たときから泣きついてますよ」

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