イジワル同期とスイートライフ

Part 3

「いてえって、離せよ」



小柄な身体に似合わない怪力で、久住を人目につかないバックヤードに引きずり込むと、花香がものすごい形相でにらみつけてきた。



「あんた、なにしとん…」

「まず訛りしまって。マジ怖い」



というより、なぜここにこいつがいるのか。

今日はWDMのリハーサルで、花香は関係ないはずだ。



「六条さん泣かすなっつーの、しっかりしなよ」

「えっ、あいつまた泣いてた?」



ついそう言ってしまい、花香に鋭く噛みつかれた。



「またってなによ」

「なんでもねーよ」

「あんた、まさか性懲りもなくクズな所業を…」

「やってねー、やってねー、やってねーって」



詰め寄られて、情けなくも必死に抗弁した。

これだから昔の相手には会いたくないのだ。

お互い知りすぎていて、しかもいい思い出ばかりでもなくて、でもそれはあくまで過去の自分の話で、今の生活の中にどう組み込んでいいのかわからない。



「あんたってさあ」



久住を下からねめつけ、花香が腕を組んだ。



「はっきりしてるし、必要なことは言うし、それはいいんだけどさあ」

「おう…」



なにを言われるのか、壁に張りついて身構える。



「そのせいで、なんでもわかってくれてるような気になるんだよね、こっちは」

「わかるわけねーだろ、心が読めるわけでもないのに」

「読めるんじゃないかって思わせるときがあるんだよ」

「え?」

< 195 / 205 >

この作品をシェア

pagetop