イジワル同期とスイートライフ
なんだか自分が、ただ拗ねているだけのように思えて、唇を噛んだ。


六条、お前の気持ちは?

最近ふと見せる、不安そうな、すがるような目の意味はなんだよ。

須加さんに、俺とのことを言えなかった理由はなんだ。


なあ六条。

お前だって、俺のこと好きだろ?

違うの?


 * * *


本気かよこれ。



「たいへん申し訳ございません…」

「いや、そりゃ飛ばないですよね、お疲れさまです」



WDMを終えてすぐの出張の帰り、訪れた空港は、やけにものものしい警備員たちに囲まれていた。

さいわい乗る飛行機が日系の航空会社だったため、グランドスタッフも日本人で、詳しい話を聞くことができたのだが、それによると反政府の軍事クーデターが準備されているらしい。

マジか、というバカみたいな感想しか抱けなかった。

ということは要所を固めているのは警備員じゃなく、軍人か。



「この空港も、あと1時間ほどで封鎖されるそうです」

「国内のほかの空港の状況ってわかります?」

「それが、情報が途絶えておりまして」



他にも搭乗客が殺到していたので、申し訳なさそうにするスタッフをそれ以上拘束しないよう、カウンターを離れた。

ついていない。

まずホテルの延泊を確保するのが最優先だろう。

ほかの空港に移動して、そこから飛べたらラッキーだけれど、この国は以前にもクーデターが起こっていて、そのときは確か国内の全空港が封鎖された。

いっそ、陸路で他の国に出るか?

でも隣の国も内紛があるんじゃなかったか…。


とりあえず情報を集めないことには動けないので、ホテルに戻ろうとしたとき、背後で騒ぎが起こった。

日本人のバックパッカーが、人差し指を振り上げて軍人に物申している。

久住だけでなく、その場にいた全員が凍りついた。

アホか!


現地語を操れるという強気が裏目に出たのか、鬱陶しそうに顔をしかめる軍人に、何事かまくしたてながら詰め寄る。

破裂音が響き、数瞬の静寂の後、館内は騒然とした。

さっきの、銃声か、と気づいた頃には、旅客は数か所に集められ、周りをぐるりと軍人に囲まれていた。

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