イジワル同期とスイートライフ
あれ、これ、やばくないか?

なにがよろしくないって、軍人の話す言葉がまったく理解できないのだ。



「お仕事ですか?」



ふいに声をかけられた。

見ると、集められた旅客のひとりで、久住と同じスーツ姿の若い男だった。

一見して境遇が同じで、ほっとする。



「そうです、運がないですね、お互い」

「いつまで続くのかなこれ。報道されはじめれば事情が見えるんだけど」

「あ、もしかして、こっちの言葉わかります?」

「はい、もう何年もこっちに住んでいるので」



助かった!



「他の空港ってどうなってますかね」

「今ね、嫁が家にいるんで、なにか知らないか聞いてるんですが、どうやら空港のWi-Fiが切られたっぽくて」

「あ、俺モバイルルーター持ってる…」



そのとき、銃声がまた響いた。

さっきのバックパッカーが、数名の軍人に引っ立てられていくのが見える。

そしてそれを携帯で撮影していた観光客が、軍人を苛立たせたらしかった。

こちらに向かって、なにか叫んでいる。



「あっ、まずいですね」

「なんですか」

「撮影機器を没収するそうです、携帯も含めて」

「げっ!」



そんなことされたら、通信機器も全滅じゃないか。

誰かあのバックパッカーと観光客、訴えろよ…というのは集められた全員の総意だっただろう。

もし無事に帰ることができたら、これを笑い話として六条に聞かせてやろう。


集団の中を、布袋を持って軍人が回る。

へたに小細工するよりはと、私用携帯も会社配布のも、ポケットから出した。

取引先のデータが流出するとまずいので、わずかな時間を使って、会社の携帯を初期化する。

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