イジワル同期とスイートライフ
ひとつ屋根の下
「当分泊めて」

「えっ?」



10月に入った土曜日の朝、しつこいチャイムに観念して出たら、久住くんだった。



「電話くれればよかったのに」

「しただろ!」



あれ?

見てみたら確かに着信の記録がある。



「ごめん、私、寝るって決めたら起きないの」

「そうだと思って来たんだよ」

「なにかあったの」



いきなり来て、当分泊めろって。

当座の服や日用品などをスーツケースに詰めて、まるで家出の様相だ。

朝食はまだだと言うので、サンドイッチを作りながら尋ねた。



「ゆうべ、警察が来てさ」

「匿わないよ?」

「俺じゃねえよ、隣の部屋の人が遺体で見つかったんだって」



口にするのも恐ろしいとばかりに、落ち着きなくコーヒーを飲んでいる。



「殺人の疑いで捜査中ってことで、俺のとこにも私服が来たの」

「やっぱり刑事って二人組なの?」

「お前、面白がってんだろ!」



そんなことはない、けど…。

怖がっている久住くんが新鮮で、つい刺激したくなるのは確かだ。



「計画的な犯行だから、犯人は何度も下見に来てるはず、とか言われてみろよ、ぞっとするぜ」

「えっ、じゃあ会ってるかもしれないってこと?」

「てことだろ、顔写真いくつも見せられて、『見覚えありませんか』って。あってたまるか」



吐き捨てながらも、もう泣きそうだ。

確かにそれは恐ろしい。

というか、危ない。

三回ほど行ったことがあるだけの私でも、背筋が寒くなる気がするんだから、ひとりで家にいられなくなり、飛び出してきたというのも、わかる。

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