イジワル同期とスイートライフ
好き。
このくらいの歳になると、その言葉は使い勝手が悪くなってくる。
興味はある、尊敬している、かっこいいと思う、悪くない。
こんな感じの表現じゃないと、どうも自分の気持ちにぴったりしない。
好き、なんて、大きすぎて。
曖昧すぎて、おおざっぱすぎて、まぶしすぎて、うかつに口にできない。
大人になるというのは、語彙を広げた分だけ、臆病になることを言う。
の、かもしれない。
「もう少し、話のレイヤーをそろえたいかなと。かたや現場の話、かたや経営の話だと、広がりすぎで」
「それ、こっちも懸念しているんです、ただ海外の特約店は規模が小さいので、社長がマーケティングマネジャーを兼任してたりするところが多くて」
「国内の特約店は、だいたいが部長クラスの人が来ます。市場調査、プロモーション、サービス、といった各部門の統括者が活用できる情報がベストです」
「ですね、なるほど」
向井さんがうなずき、机に置いてあった携帯を取り上げた。
「久住、ごめんな打ち合わせ中。悪いんだけど、こっち来るまでに事例のデータ探しといて、そうだな…」
コンコンとペンで手帳を叩きながら思案する。
私より3年上で、久住くんと同じ企画課に属する人だ。
各市場ごとに担当者を持つ営業課の営業員と一緒に、世界中を飛び回っている。
「ノルウェーのがいいかな、フラグシップストアの…あ、マジで?」
向井さんがPCを覗いた。
ちょうど壁のディスプレイに繋がれていたそのPCに、すぐに久住くんからのメールが届いたのが、全員に見える。
本文にはサーバのパスが貼られていた。
クリックすると、事例の資料が表れる。
「ほんと使える奴だなあ」
向井さんのもらした独り言に、そうでしょ、と自慢したいような気分になり、慌ててそんな自分を戒めた。
このくらいの歳になると、その言葉は使い勝手が悪くなってくる。
興味はある、尊敬している、かっこいいと思う、悪くない。
こんな感じの表現じゃないと、どうも自分の気持ちにぴったりしない。
好き、なんて、大きすぎて。
曖昧すぎて、おおざっぱすぎて、まぶしすぎて、うかつに口にできない。
大人になるというのは、語彙を広げた分だけ、臆病になることを言う。
の、かもしれない。
「もう少し、話のレイヤーをそろえたいかなと。かたや現場の話、かたや経営の話だと、広がりすぎで」
「それ、こっちも懸念しているんです、ただ海外の特約店は規模が小さいので、社長がマーケティングマネジャーを兼任してたりするところが多くて」
「国内の特約店は、だいたいが部長クラスの人が来ます。市場調査、プロモーション、サービス、といった各部門の統括者が活用できる情報がベストです」
「ですね、なるほど」
向井さんがうなずき、机に置いてあった携帯を取り上げた。
「久住、ごめんな打ち合わせ中。悪いんだけど、こっち来るまでに事例のデータ探しといて、そうだな…」
コンコンとペンで手帳を叩きながら思案する。
私より3年上で、久住くんと同じ企画課に属する人だ。
各市場ごとに担当者を持つ営業課の営業員と一緒に、世界中を飛び回っている。
「ノルウェーのがいいかな、フラグシップストアの…あ、マジで?」
向井さんがPCを覗いた。
ちょうど壁のディスプレイに繋がれていたそのPCに、すぐに久住くんからのメールが届いたのが、全員に見える。
本文にはサーバのパスが貼られていた。
クリックすると、事例の資料が表れる。
「ほんと使える奴だなあ」
向井さんのもらした独り言に、そうでしょ、と自慢したいような気分になり、慌ててそんな自分を戒めた。